ビバ!おじゃる丸ワールド TEXT:吉村正春(1999/5/23)

「おじゃる丸」は一体どんな番組だろうか?との極めて漠然な問いに対し、色んなアニメを引き合いに出しつつ考えてみたい。おじゃる丸は、ドラえもん・クレヨンしんちゃん等の既存アニメとは一線を画す不思議なテイストに包まれた番組である。ちょいとこの3番組を比べてみる。(なお比較対象がアンパンマンや忍たま乱太郎ではないのは、舞台が現代日本では無いためである)

おじゃる丸・ドラえもん・クレヨンしんちゃんの3者の現実度を考えてみれば、最も現実度が高いのが、ドラえもん、次いでしんちゃん、おじゃる丸の順になる。
あれ?ドラえもんが一番現実度が高いの?と思われた方もいるだろうが、ドラえもんでは、猫型ロボット「ドラえもん」with「未来の道具」だけが非現実なだけで、彼を取り巻く人間模様はまさしく現代の縮図。主人公のび太くんは、「イジメられる」「成績が悪くてお母さんに怒られる」などのリアルな生活を送っている。(その報復手段としてドラえもんがしゃしゃり出てくるパターンは、果して夢がある子供番組と言えるのだろうか?と常々思っているが、ここでは深く触れない)

これがクレヨンしんちゃんになると、構図が変わってくる。
しんちゃんを取り巻く人間模様はある一面においてドラえもんよりもリアルに描かれているが、肝心の主人公しんちゃんはリアルな世界に縛られることがない。幼稚園にイジメっ子(風間君ではない。念の為)がいても、彼は漫画的にかわす。大人の思惑も、全てを見透かしたような底意地の悪さで軽く乗り越えて行く。このピカレスクぶりが彼の真骨頂であることは言うまでも無い。しかしながら、こんな子供がいるかと言えば、否だろう。しんちゃん像はあくまでも、子供が持つ無邪気性・残虐性・狡猾性をオトナの視点で極端にデフォルメしたものである。

さて、おじゃる丸に話をうつそう。
主人公坂ノ上おじゃる丸は(この文章を読んでいる方には説明は要らないと思うが)千年昔のヘイアンチョウから満月ロードを通って現代の月光町にやってきたやんごとなき雅なお子様である。設定から言うと、おじゃる丸が非現実なキャラのような印象があるが、そうではない。確かに、タイムトラベルしていたり、なんでも吸い込む四次元ポケットライクな「烏帽子」や役に立つのかどうかよく分からない「勺」などを持っていたりするのだが、こういう設定や小道具は便宜上必要なだけで、彼の本質とはほとんど関係無い。この点は、道具無しにエピソードを形成することができないドラえもんと一線を画すものである。
実際、彼はヘイアンチョウにいるときには、家庭教師はついてるわ、いいなづけはいるわで、現代人同様かなり窮屈な生活をおくっている極めて現実的なキャラなのであり、彼の本分であるまったりライフは月光町にやってきてから実現したものである。おじゃる丸がおじゃる丸として生きられるのは月光町というフィールド無くしては語れないと言っても過言ではない。

さて、おじゃる丸にとって理想郷とも言うべき月光町だが、そこに生きているキャラはまさに多種多彩。
狛犬は実体化してるわ、沼には存在も行動も謎なヤツが住んでいるわ、星印を背負ったハムスターは占いしてるわ、町内会長は変装してるわ、そりゃもう何でもアリの世界である。しかし最も現実離れしている点は、月光町においては異端が異端視されないことにある。主人公おじゃる丸はもちろん最大の敵役である小鬼達でさえ、迫害を受けるどころか、逆に愛されている(特にトミーじいさんに)。他のキャラについても同様なことが言える。どのキャラでも誰かしらに必要とされていて、一方的な主従関係や全く孤立したキャラはいないのだ。これは珍しいことである。大抵の番組の主人公はアウトローやヒーローであり、多くのエピソードは周りの環境との軋轢によって生まれる。全く満ち足りた舞台など存在しなかったのだ。

カズマが石の魅力について「石ってさ、全てをそのまま受け入れるんだよねぇ〜」(「カズマ、石をこわがる」の回より)と語っている。この言葉はそのまま月光町に住む人々に当てはまるのではないだろうか。
おじゃる丸は「癒し」のアニメと言われるが、この全てを包みこむ月光町フィールド自体が「癒し」の役割を担っているとは言えまいか。我々と同じく窮屈な生活を過ごしていたおじゃる丸自身が月光町に癒されている。と同時に、おじゃる丸の天衣無縫な人生観、行動、あるいはさりげない心遣いなどにシンパシィを抱く我々もまた癒されているという構図が即ち「癒し」のアニメたる所以ではないだろうか。
ドラえもん、しんちゃんは娯楽番組であっても人の心を温かく揺さぶる「癒し」番組とは言われない。なぜなら彼らが息づく世界は我々の現実世界となんら変わることがないからだ。そこには毎回争いが起こり、誰かしらは怒っている。おじゃる丸は違う。まさしく月の光のように優しく全てを抱く月光町がある。その環境を謳歌しているおじゃる丸の姿がある。全てが癒し癒される関係で成り立つ「おじゃる丸」ワールドは、穏やかな世界で心静かな生活をおくりたいという願望を持つ現代人にとって理想郷そのもの。そして今のところそのような理想郷を提示してくれる番組は、「おじゃる丸」以外にないのである。良質な絵物語に乾杯!(了)

(後記)
吉正と申します。このような発表の場を与えていただきゆき姫さまに感謝。
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